TidBITS#769/07-Mar-05 ===================== 今週はいろいろな記事を取り混ぜた号になった。Glenn Fleishman は Apple の最新の PowerBook における新テクノロジーをテストし、Jeff Carlson は Mac OS X になってどれほど Mac OS 9 のウィンドウ挙動がなくて困ったか を実感し、Adam はアプリケーション間でデータをリンクするための新しい オープンソースのテクノロジー、LinkBack を概観する。そして締めくくり の記事では Adam がデジタル著作権管理 (DRM) を取り上げ、著作権法がど のように適用されるべきかという私たちの社会的通念を、DRM がいかにない がしろにしているかを分析する。ニュースの部では、Timbuktu Pro 8.0、 Rogue Amoeba の新しい Airfoil、それに Microsoft Office 2004 11.1.1 アップデートについてお知らせする。 記事: MailBITS/07-Mar-05 2本指で真っ暗な所で PowerBook を落とす LinkBack データのリンク作りを復活させる Mac OS X ウィンドウの挙動 どうして DRM は気に障るのか TidBITS Talk/07-Mar-05 のホットな話題 (日本語) Copyright 2005 TidBITS: Reuse governed by Creative Commons license Contact: --------------------------------------------------------------- 本号の TidBITS のスポンサーは: * 読者のみなさん! あなたのカンパで TidBITS を応援してみませんか? <-- NEW! 今週は David Black 氏、Edward Floden 氏、そして Joseph Walters 氏の暖かい支援に感謝! * SMALL DOG ELECTRONICS: Selected Memory On Sale! 1 GB: PC3200, PC2700 - $189, PC2700 SO DIMM - $255! 512 MB: PC3200, PC2700 - $79, PC2700 SODIMM - $95! 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Engst  訳:亀岡孝仁 これまでワープロ書類に画像を貼り付けてそれを後で更新したいと思ったこと はありませんか?それは面倒なプロセスで、まずは元のファイルを開いて必要 な変更を加え、新しい画像をコピーし、ワープロ書類に戻って、古い画像を削 除し、新しい画像を貼り付けるといった具合である。本来こんな面倒である必 要はないはずである - 二つのアプリケーション間での会話が出来れば複数の アプリケーションがデータを共有することは出来るはずである。実際、限られ た局面ではこれをやっているアプリケーションは既に存在する、通常一つの会 社から出されているスイートプログラムの中で。ここに来て LinkBack と呼ば れる新しいオープンソース技術が、このデータリンクをより多くの Mac OS X プログラムにもたらそうとしている。この様な技術の到来は大歓迎である。と いうのも Apple はこれまで長年にわたってこの様な接続性を与えようと色々 試みては失敗してきた経緯があるからである。 もしあなたの Macintosh の世界との係わりがかなり長ければ、Apple の「発 行と引用」技術を覚えておられるかもしれない。これは 1991年に System 7 で現れたもので、これを使えば一つのアプリケーションからデータ - 画像、 ある種のテキスト、チャート - を "公開" し、そして他のアプリケーション からそれを "購読" 出来るというもので、言ってみれば公開したデータの生き たコピーを他の書類に挿入するという感じである。この様にすれば、出版側の アプリケーションの画像が変更されれば、購読側の書類は自動的にその変更を 受け取れる。「発行と引用」はアイディアは良かったが、私が 1994年まで 待って TidBITS に書いたように、これは失敗であった。その理由は、実現方 法がまずかったのとデベロッパーからのサポートが十分得られなかったためで ある。 そして次に OpenDoc が出現した。これは 1994年の Worldwide Developer Conference で Apple が紹介し、1995年の終わりから 1996年の初めにかけて 現実となったものである。Apple は OpenDoc が何であるかの説明をするのに いい仕事をしたことはないが、要は、小さなモジュール - 他社からのものの 可能性も含めて - が結合された書類中心のインターフェースを通して一体化 されたアプリケーションの力を発揮させようというものである。理論は素晴ら しかった:希望のワープロに最善の Find モジュール、最善の Table モ ジュール、等々を加え、そしてこれら全てが同じインターフェースの下にシー ムレスに統合されるというものである。Apple の OpenDoc ベースの Cyberdog プログラム (統合インターネットクライアント) の人気と Nisus Software の 様ないくつかの会社のサポートがあったにもかかわらず、現実は理論からは程 遠いものであり Apple は 1997年にOpenDoc と Cyberdog を "メンテナンス モード" に入れてしまった。興味深い話として、OpenDoc コミュニティは OpenDoc Development Framework のために "受託責任合意書" を取り付けるべ く Apple が OpenDoc を続けることを条件に交渉しようとしたことがあるが、 この考えに賛成していた副社長が Apple を退社するのと同時に消えてしまっ た。 (日本語) "OpenDoc 1.0 & SDK 入手可能!" (日本語) "1998 年の Apple:後退か、焦点を絞り込むか?" Apple がこの不運の「発行と引用」と OpenDoc と格闘している間に、 Microsoft は OLE (Object Linking and Embedding) を開発し、これは今でも Microsoft アプリケーションの中で使われている。NeXT は 1995年に Object Links を創り出した。 LinkBack は Nisus Software, The Omni Group, そして Blacksmith によって 共同で発表されたオープンソース技術で、システムワイドなデータリンクを再 び提供することを目指す第一歩である。LinkBack は将来の Nisus Writer Express, OmniGraffle, OmniOutliner, Chartsmith, そして Stone Create に 搭載される予定で、貼り付けられた画像を編集したいと思う時は、その画像を ダブルクリックしてオリジナルのアプリケーション上で編集し、その後の変更 は自動的に最終書類にも反映される。この貼り付けデータは何も画像に限られ るわけではない;それはテキストでも良く、例えば株価情報の様に自動的に アップデートしたいものでも良い。 勿論、LinkBack がどれぐらいうまく動くのか、とりわけ過去に他の全ての データリンク技術を苦しめた問題をどれぐらい巧く回避しているのかはこれか らの話である。当然のことながら、広範囲なサポートはとても重要なことであ る。何故ならば、広く利用されない限りユーザーは LinkBack の事など考えも しないからである。このプロジェクトがオープンソースであるという生い立ち は採用への追い風となるであろう、とりわけ過去に Apple に痛い目をあわさ れたデベロッパー達も LinkBack が一つの会社の気分次第で生き死にが決めら れるのを心配しなくて済むであろう。それから LinkBack が信頼でき使い方も 簡単であることも重要である。さもないと、この技術が聴衆を惹きつけるのは 難しくなる。 そこでもしあなたがデベロッパーの一人であったなら、LinkBack にも目を やってみて欲しい。Apple の重量級のデータリンク技術が過去に失敗したから といって、残りの我々がいま良いソリューションを使えないということではな いからである。 Mac OS X ウィンドウの挙動 ------------------------- 文: Jeff Carlson 訳: Mark Nagata Apple が私たちに Mac OS X を押し付けてきた時、これは私たちにとってかな り大きな変化だった。私の同僚の一人がこんなことを言っていたのを覚えてい る。彼の頭にはあらゆる種類の Mac OS 9 トラブルシューティングの奥義がぎっ しりと詰め込まれていたのに、そのうちのほとんどは Mac OS X が地歩を占め るやいなや役立たずの知識になってしまうだろうというのだ。この新しいオペ レーティングシステムではその挙動のいくつかが大きく変わってしまい、私た ちが Mac を長年使ってきた仕事の流れが、すっかり壊されてしまったのだ。 そういうわけで、間もなくこうした従来の挙動を取り戻してくれるユーティリ ティがいくつか登場した。(TidBITS-622_ の記事“厳選 Mac OS X ユーティ リティ: Mac OS 9 の機能を取り戻す”を参照。) (日本語) "厳選 Mac OS X ユーティリティ: Mac OS 9 の機能を取り戻す" 大部分の点では、私の Mac OS X への移行はそういうユーティリティに頼る必 要もなくスムーズに行った。私自身驚いたのだが、新しい Mac OS X のやり方 に私が適応するまでに、それほど長い時間はかからなかった。けれどもたった 一つのことだけは私をいらいらさせ続けた。実際私はその挙動を修正するユー ティリティをずっと前からインストールしていたために、そのことをすっかり 忘れてしまっていた。それが、Mac OS X のデフォルトのウィンドウ挙動だ。 **トラブルが不満を呼び覚ます** -- 最近私の PowerBook が変な挙動を示すよ うになってきた時、私はその起動項目の中に問題の原因となっているものがな いかと探してみた。そこで私が使用停止にしたユーティリティが ASM (Application Switcher Menu) 2.0.2 だった。これは、Mac OS 9 にあるのと 同じようなアプリケーションメニューを提供するユーティリティだ。どうやら ASM はその問題の原因とは無関係のようだったが、それとは別に私が直ちに気 付いたのは ASM が私に欠くべからざる機能を提供してくれていたのだという ことだった。それは、あるアプリケーション(例えば Eudora や Finder)に 属するウィンドウを一つ私がクリックすると、ASM はそのプログラムに属する ウィンドウをすべて前面に持ってくるようにするのだ。通常、Mac OS X では、 一つのウィンドウをクリックするとそのウィンドウだけが前面に来て、そのア プリケーションの他のウィンドウはすべてそのままの状態で変わらない。 実際のところ、そもそも初めから私が ASM をインストールしたのはこれが唯 一の理由だった。事実私はアプリケーションメニューなど使わない。けれども、 このウィンドウ関係の機能が無い状態は、私を数日間狂ったような気分にさせ 続けた。 Mac OS X デフォルトのウィンドウ挙動は正気とは思えない。私は普段、Eudora のウィンドウを四つ、同時に開いている。私の In box と、私のメールボック スのリスト、Task Progress ウィンドウと、それから Filter Report ウィン ドウだ。もしも私が別のアプリケーションで作業していて Eudora に切り替え たいと思ったら、私はこれら四つのウィンドウをすべて見たい。私がクリック した一つが見えるだけでは役に立たない。 この挙動に応えた動きの一つとして、Apple が1ウィンドウのインターフェイ スに向かいつつあるということが挙げられるだろう。iTunes、iMovie、iPhoto などがよい例だ。けれども、Apple のソフトウェアで1ウィンドウには納め切 れないようなものもある。例えば Final Cut Express は少なくとも四つのメ インウィンドウを持ち、その環境設定オプションとして前面に出る時にはすべ てのウィンドウが共に前面に来るように指定できるようになっている。これも、 この問題に対する一つの回避法と言える。(この例に示唆を受けて、他の開発 者たちもそれぞれのアプリケーションに同様の環境設定を追加してくれるよう になるかもしれない。) Dock でアプリケーションアイコンをクリックすることもできるが、それはス クリーンの反対側の端にある小さな目標を目指してマウスをずっと動かして行 かねばならないことを意味している。それに、この方法はいつも私の望み通り の挙動をしてくれるわけでもない。例えば、Finder アイコンをクリックする と、現在 Finder にウィンドウが開いていない場合には新規のウィンドウを作っ てしまう。でも、Mac OS X にはウィンドウをトランプのカードを切るように 重ねていく傾向があって、個々のウィンドウは独立の存在であり、アプリケー ションに応じたグループ分けにはしないという動作の基本があるのだ。だから、 すべてのプログラムがそれぞれの Window メニューに Bring All to Front コ マンドを持ったとしても、あまり役に立つとは言えないだろう。 ここで必要なのは、アプリケーションが前面に出た時にそのアプリケーション のウィンドウすべてが前面に来るのかどうかを私が指定できる、シンプルな環 境設定だ。しかしそれが実現するまでは、そのギャップを埋めてくれるいくつ かのユーティリティに頼るしかない。 **X-Assist** -- この記事で紹介するつもりだったのは、さきほど述べた ASM ではない。私は特に ASM で問題があったことはないのだが、この無料バージョ ンは一番最近のバージョンでも既に数年の年を経ている。2.1 ベータ版という のが $15 のシェアウェアとして入手できるが、これは現時点では Mac OS X Panther で問題があり、もうかれこれ一年ほどもアップデートされないまま過 ぎている。もしもこの ASM が唯一の解決法だというのならば私もお金を払っ て使っただろうが、私としてはやはり問題を抱え込むのは望まない。 その代わりに、私はオンラインでいろいろ探し回ったあげくに Peter Li の X-Assist を見つけた。これは ASM の機能と似た機能を多数提供しているよう だ。例えば Mac OS 9 流のアプリケーションメニューや、システム環境設定の 各パネルにアクセスできる階層メニューなどがある。また、機能をアドオンで 加えることのできるプラグイン・アーキテクチャや、最近使ったアプリケーショ ンのリストなども提供している。けれども正直なところ、私はそうした余分の 機能はすべてオフにしている。X-Assist は私のウィンドウが前面に来る際に そのあるべき挙動をとらせてくれる。そして、それこそが私の望みのすべてな のだ。さらに素晴らしいことに、このソフトウェアは無料だ。バージョン番号 は現在 0.7 であるけれど、見たところその安定性は抜群だ。 (日本語) "Bridge 1 Software Japanese Page" **その他の解決法** -- この記事の短縮版が ExtraBITS に載ったすぐ後、何人 かの読者たちから、Mac OS X のウィンドウ挙動の方を支持するお便りや、私 が X-Assist に見つけたのと同じ機能を提供できる他のユーティリティを推薦 するお便りなどを頂いた。驚いたことに、アプリケーションのウィンドウをグ ループとして前面に持ってくること _だけ_ を機能とするユーティリティは見 つけられなかった。たいていは、Proteron の LiteSwitch、TLA Systems の DragThing、それに Peter Maurer の Butler などのプログラムで、いろいろ の他の便利な機能に追加しての設定項目という形で提供されている。その多く には、通常のウィンドウ挙動が欲しい場合に一時的にこのウィンドウ設定を無 効にできるようなオプションもある。 つまるところこれは、一人の人の好みは他の人の気に触る、という実例の一つ でしかない。アプリケーションを切り替える度に、私にとっては阿呆らしいと 感じられるウィンドウ挙動を目にして、私が自分の Mac に怒りをぶつける、 というのはとても悲しいことだった。でも、先週以来お便りをやり取りした何 人かの人たちは、個々のウィンドウが独立の要素としてふるまうようになって 嬉しい、という気持ちをはっきりと示していた。もちろん、それぞれの人には それぞれの考えがあって当然だろう。そして、もしもこの話に教訓があるとす れば、それは Apple が、一番最初のバージョンの Mac OS X の時から、少な くとも Mac OS 9 流のウィンドウ挙動をオプションとしては提供すべきだった ということだろう。デフォルトであるべきだとは言わない。でも少なくともそ ういうオプションがあれば、旧来の挙動に慣れた人たちが感じるいら立ちを和 らげることができただろう。残念ながらこの問題についてはもう何年も前に馬 が納屋を離れてしまっているが、少なくともこの挙動を取り戻してくれるサー ドパーティのユーティリティがたくさんあることは救いだ。 どうして DRM は気に障るのか --------------------------- 文: Adam C. Engst 訳: 羽鳥公士郎 世の中には、正しいだろうという気はするが、どうして正しいのかはっきりと は分からないということが数多くある。そこで、あなたが思慮深い人ならば、 「でも、それは絶対間違ってる!」というよりもよい説明を思いつくことがで きるはずだと、思い悩むことになる。 私自身を含め、多くの人にとって、デジタル権利管理(DRM)技術というの は、この範疇に入る。私たちには、手当たり次第に音楽や映画をダウンロード して著作権法を破ろうという気はないし、私たちの多くは著作物を生産したり 販売したりして生計を立てているのだが、それでもなお、世界中のエンターテ イメントとメディアの複合企業のやり方には不快感を感じる。あるコメンテー ターがコンテンツ・カルテルと呼んだ彼らは、すべての曲、すべての映画、す べてのテレビ番組が、何らかの形の DRM にしっかりとくるまれ、その内容に アクセスしたり内容を使用したりすることが統制されるように、一所懸命に なっている。 Cornell 大学情報科学部が開催した、Minnesota 大学法科大学院 Dan Burk 教 授の講演のおかげで、どうして DRM に私の身の毛がよだつのかということに ついて、かなりはっきりした考えをもつことができた。あなたが DRM と関連 する法律について一般的な興味をお持ちなら、Burk 教授が講演の基にした原 稿を読むことをおすすめする。 **法的ルールと法的基準** -- Burk 教授が説明したところによると、法律に は大きく分けて2つの基本的な側面がある。ルールと基準だ。法的ルールとい うのは、明確に定められた命令であって、そこでは、法律の詳細にまつわるす べての考慮は事前になされている。法的ルールの場合、少なくとも理論的に は、そのルールを制定する主体が、境界線や例外、罰則といった細目について 審議し、その結果できあがった法律に違反した者には、いかなる解釈の余地も 与えられない。たとえば、麻薬所持に関する法律があって、それによると、逮 捕時に 5 グラム以上のマリファナを所持していた者には 3 年の懲役が科され るとしよう。もし未成年の愚かなマリファナ常習者がこのカテゴリーに当ては まってしまえば、ほかの状況がどうであろうと、その子供は 3 年間刑務所に 送られる。 それに対して法的基準は、本質的には、目標を設定し、不法な行為を定義する ガイドラインを定めるが、かなりの程度解釈の余地を残している。だから、厳 密な法律が、どのような行為が不法であるとみなされるのかを正確に記述し、 それに対し特定の処罰を命じるのに対して、法的基準に基づく法律というもの は、麻薬所持は不法であると宣言するとしても、その罪がより軽い処罰の対象 となるのか(未成年のマリファナ常習者の場合のように)、またはより重い処 罰の対象となるのか(悪名高い麻薬ディーラーがヘロインを1キロ持っていた 場合のように)ということについて、裁判官の手に裁量をゆだねる。 私は法学者ではないが、常識的な見地から言って、ほとんどの人が法的ルール よりも法的基準の方を好むだろうと思う。結局のところ、法律というのは政治 家が作るものだ。たとえ立派な政治家がいるとしても、政治家が犯罪や罰則を 定義するために、「もしもこうだったら」という仮説的なシナリオを検討する のを、あなたは信頼するだろうか。それよりも、裁判官が判決を下すときに、 その特定の事件についての実際の事実を使用することができる方がよいとは思 わないだろうか。ここ数日のあいだに皆さんのほとんどが破ったであろう法律 について考えてみよう。自動車の法定速度を定めた法律のことだ。あなたは、 スピード違反をして捕まったら自動的に 200 ドルの罰金を科せられるという 法律を好むだろうか、それとも、警察官や交通裁判所に、重症のけが人を救急 病院に運んでいたことが免責の理由になるかどうか判断する予知を与える法律 を好むだろうか。 Burk 教授が、後に私に電子メールで語ってくれたのだが、基準よりもルール の方を好む人たちもいる。その理由は単純で、ルールは結果が予測できるの で、どんなことが起こるのか事前に知ることができるのだ。彼はまた、裁判官 があまりに大きな力を持ちすぎることを懸念する人たちもいると指摘した。で も、私が思うには、「司法積極主義」に不満を表明する人のほとんどは政治家 で、競争相手がいるということにへそを曲げているのではないだろうか。 **DRM: そいつはルールだ** -- 1歩立ち戻って考えてみよう。社会的に容認 できる行為を促すための方法はいろいろあって、法律を作るというのはその 1つにすぎない。社会の全体的な目標が、人々にもっとゆっくり慎重に運転さ せるということだったら、道路に徐行帯を設けるとか、道路や路肩を狭くする というのも、同じ効果を持つだろう。もちろん、この方法にはマイナス面も あって、たとえば、救急車も遅くなってしまうし、消防車が消火作業をするの も難しくなる。それに、このような方法は、好ましくない行為をする気をなく すというだけであって、その行為を完全に禁止することはない。徐行帯のある 道路や狭い道路でも、スピードを出すことは可能だ。その意味では、このよう な法律以外の方法は、法的基準と似ているといえる。システムの中に身動きす る余地があるのだ。 DRM は、大まかにいえば、行為を促す法律以外の方法というカテゴリーに当て はまるが、1つだけ重要な違いがある。DRM は、すべての技術がそうであるよ うに、法的基準ではなく、法的ルールを具体化するものである。理にかなった 例外や法的に認められた例外があっても、その例外を評価したり是認したりす るような DRM 技術を作ることは、絶対に不可能だ。あなたが iTunes Music Store から曲を購入して、それを DRM をはぎ取ることなく再生しようとすれ ば、iPod を使うか、認められたマシン上で iTunes を使うかするほかない。 身動きする余地はないのだ。 これは重大な問題である。なぜなら、DRM が具体化している法律は著作権法で あり、著作権法は疑いもなく法的基準の一例なのだ。著作権法はさまざまな例 外を認めている。公正使用、図書館や公文書館での複写、農産物品評会や園芸 品評会での音楽演奏などだ(最後にあげた免除規定はどれだけの経済的損失を 生んでいるだろうか?)。それに加えて、著作権が侵害された事件ではいつで も、裁判官は、何がコピーされ、どのようにコピーされ、コピーの意図は何で あり、著作権保有者がどれだけ経済的損害をこうむったかを考慮しなければな らない。コンテンツ・カルテルがどんなにがんばって「海賊行為」という題目 の下に同一視しようとしても、Kazaa で音楽を1曲ダウンロードするのと、 Harry Potter の最新映画 DVD を何千枚も複製して転売することとのあいだに は、大きな違いがあるのだ。 これで、なぜ DRM が数多くの人々の感情を逆なでしているのか、お分かりい ただけただろう。DRM は、本来は理にかなった法的基準である著作権法を、 「もしも」も「そして」も「しかし」もない法的ルールに変えてしまうのだ。 **許可と免除** -- DRM が法律の代わりをすることには、もうひとつの側面が ある。法的ルールにせよ法的基準にせよ、あなたには、自分がしたいと思うこ とは何でもして、それで捕まったら免除を求める自由がある。その結果とし て、多くの法律違反は気づかれることがないし、気づかれたとしても、多くの 場合には、法律を執行することの社会的な損失が利益よりも大きいので、裁判 所に送られることはない(警察官は、制限速度を守ることよりも、目の前のけ が人を病院へ運ぶことのほうが重要だという判断をすることができる)。 しかしながら、この事実から導かれる帰結として、法律は意図したよりも遠く まで及ぶ。制限速度を越えるということは、どんな場合でも、理論的には交通 法違反であるが、あなたがスピード違反をしたときに自動的に自動車から警察 に通報するようになっているべきだというほど、制限速度を守ることが重要だ と信じている人はいない。同じように、デジタルメディアファイルを許可を受 けずに複製することは、理論的には著作権法違反であるが、iPod 所有者のす べてが、公正使用の範囲で Mac から iPod に音楽をコピーすることを正当化 するために、裁判所に連行されるべきだと考える人は、RIAA の外にはほとん どいないだろう。 だから、現実の世界では、私たちは、理論的には法律に違反する行為をしてし まったあとで免除を求めることに慣れている(率直に言って、私たちは、執行 を正当化するにはあまりに些細な違反を数多くして、罰せられずに済むという ことに慣れているのだ)。しかし、デジタルの世界では、DRM がこのシステム をひっくり返し、私たちが免除を求める代わりに許可を求めるように強制して いる。10 代の時期を過ごしたことのある人なら誰でも、これがどれだけ問題 含みであるか知っている。親がクールなものに同意することはほとんどない。 技術についていうなら、許可を求めることを強制すれば、結果として起こるこ とは、実験や革新が抑制されるということだ。オリジナルの Napster やほか のピアツーピアファイル共有ネットワークが、偏狭な音楽業界の愚か者を震え 上がらせることがなかったら、はたして彼らは Apple が iTunes Music Store を作ることに同意しただろうか。 ほとんどの DRM システムは、成文の著作権法を基にして、理論的に違反とな る行為を禁止するから、著作権法に定められた例外を考慮に入れることができ ていないだけでなく、法律がどのように施行されるべきかということに関する 社会的な期待も無視している。それはちょうど、自動車メーカーがすべての自 動車にリミッターを装備し、そのリミッターが道路上のあらゆる場所で定めら れている制限速度を判断し、どんな理由があろうとも自動車がそれ以上の速度 で走ることができないようにするようなものだ。反乱を起こそうとは思わない だろうか! **身を動かす余地があるか** -- 実際のところ、iTunes Music Store から購 入した曲のような、DRM で保護されたコンテンツについても、身動きする余地 がないわけではないし、DRM 技術のほとんどすべてがすでに破られているとい うのも事実だ。Burk 教授によると、コピー防止技術を使った曲がリリースさ れてからファイル共有ネットワークに現れるまで、およそ 4 分しかかからな いということを、ピアツーピアを追跡している BigChampagne が見出してい る。だから、あなたが iTunes Music Store で曲を購入して、さまざまな方法 の1つを使って FairPlay DRM を取り除き、本来は不可能なやり方でその曲を 使用するということも可能だ。 しかし、DRM 技術を破ることによって、自ら身動きする余地を作るということ には、問題がある。おなじみの DMCA(デジタルミレニアム著作権法)だ。 TidBITS-656_ の「邪悪な法律、DMCA」を参照してほしい。DMCA は、コンテン ツへの _アクセス_ とコンテンツの _使用_ とを区別し(これはいささかあい まいな区別だが)、アクセスコントロール技術を回避することを禁止してい る。しかし、DMCA は、使用コントロール技術を回避することは禁じていな い。そのこころは、合法的に購入したデータについて、公正使用を許すような 抜け道を議会が残しておいたということだ。ところが、DMCA には問題があっ て、アクセスコントロール技術と使用コントロール技術の _どちらか_ を回避 するツールを供給することを禁止している。ということはつまり、あなたは望 むならば使用コントロール技術を合法的に回避することができるのだが、その さいにどんな助けも受けてはいけないし、他の人が使用コントロール技術を回 避するためのツールを作ることもできない。いうまでもなく、この障壁を合法 的に越えることは、基本的には誰にもできない。 (日本語) "邪悪な法律、DMCA" 最近になって、裁判所が DMCA の背後に隠された危険性に気づき始めたという ことには、希望が持てる。Burk 教授は、講演の中で、上訴裁判所が DMCA を 振りかざす原告の訴えを退けた事件を2つ引き合いに出した。1つは、 Chamberlain 対 Skylink の事件で、Slylink が Chamberlain の車庫のドアを 開けるために必要なコードをリバースエンジニアリングするのを禁止するよ う、Chamberlain が訴えた。Skylink は、万能車庫解錠器に使うために、コー ドをリバースエンジニアリングしていたのだ。裁判所は、議会はこのような非 競争的な行為を想定して DMCA を作ったのではないという判決を下した。もう 1つは Lexmark 対 Static Control の事件で、Static Control が Lexmark のプリンタ用のノーブランドトナーカートリッジを作るために必要なチップを リバースエンジニアリングするのを、Lexmark が DMCA を盾に禁止することは できないという判決が下った。 この記事の教訓があるとすれば、それは、DRM 技術が最初の見かけよりも巧妙 で悪質な結果を生むということだ。DRM は法的ルールを具体化し、著作権法が どのように解釈され施行されるべきかということを決定しようとする人間の努 力を排除してしまう。このように理解したところで、DRM のおかげで人生が不 必要に複雑になってしまう多くの人々の不快感を和らげることはないが、少な くとも、どうして DRM が気に障るのかということの説明にはなる。技術上の 実験や革新の未来がかかっているということは言うまでもない。 PayBITS: Adam の記事が、DRM がいかにして著作権法をむしばみ問題を起こす のかを理解するお役に立ったなら、EFF に寄付をしてはいかがでしょうか。 PayBITS の説明: TidBITS Talk/07-Mar-05 のホットな話題 ------------------------------------- 文: TidBITS Staff 訳: Mark Nagata 各話題の下の2つ目のリンクは私たちの Web Crossing サーバでの討論に繋が る。こちらの方がずっと高速のはずだ。 **共有データベースの解決法** -- ある読者の属する組織では、困難の度が増し つつあるるのが感じられ始めている。いくつものマシンでいろいろなデータベー スが共存する事態を避けるために、情報を統合する最良の方法は何だろうか? (メッセージ数 9) **パスワード開示の遅延テクニック** -- オンライン認証のための新しい方法が、 インターネット上でパスワード盗難を防止するのに役立つかもしれない。(メッ セージ数 8) **Timbuktu 8.0 が遂に暗号化を追加** -- Netopia の遠隔管理ソフトウェアの 最新版について読者たちが議論を続ける。特に、新しい Push Install 機能で Timbuktu のアップグレードが手軽になった。(メッセージ数 5) **iTunes の大掃除** -- iTunes ライブラリで重複を選り分けるという Adam の 記事について、他の読者たちから別の解決法が寄せられた。複数のライブラリ を同期化する方法や、いくつもの曲の情報を一度に変更する方法など。(メッ セージ数 7) **Site Crossing に似たシンプルなホスト付き CMS** -- Web Crossing Inc. の 新しい Site Crossing サービスに似た、会社にホストされたコンテンツ管理 システムで他のものを読者たちが提案する。(メッセージ数 16) **iPod で不眠に打ち勝つ** -- Adam と Tonya が iPod を使って眠りにつくと いう先週号の記事は何人かの人の琴線に触れたようだ。特別の枕スピーカーを 推薦した人もいれば、どうしてオーディオブックが眠りを誘うのかという仕組 みを説明してくれた人もいた。(メッセージ数 3) **複数の iTMS 認証** -- 別々のユーザアカウントで iTunes Music Store から 購入した曲を組み合わせようとしてトラブルを経験した読者たちがいた。一方、 何の問題も経験しなかった人たちもいた。(メッセージ数 4) **サードパーティの DVD バーナー** -- Apple 製でない DVD バーナーを探して いる人のために、いろいろの提案が寄せられる。内蔵の機種も、外付けの機種 もある。(メッセージ数 4) **旅行中の SMTP サーバ** -- ある読者が北京に移動した際、彼女は古い SMTP サーバ経由で電子メールを送信しようとしてトラブルに遭遇した。TidBITS Talk が早速救援に駆け付ける! (メッセージ数 15) $$ 非営利、非商用の出版物は、フルクレジットを明記すれば記事を転載できま す。それ以外の場合はお問い合わせ下さい。記事が正確であることの保証は ありません。告示:書名、製品名および会社名は、それぞれ該当する権利者 の登録商標または権利です。 お知らせ:TidBITS(英語版)に関する情報(各種 ML 購読、バックナン バー、全文検索など)は、TidBITS ホームページにお越しくださいこの他にも多くの情報があります。TidBITS ISSN 1090-7017 原著者への感想や寄稿は 宛て英語で メールをご送付ください。 TidBITS(日本語版)に関する情報( ML 購読、バックナンバーなど)は、 日本語版ページ をご利用 ください。日本語版と日本語翻訳に関するお問い合わせ、コメント、激励 は、このメールにご返信 ください。 -------------------------------------------------------------------